西川祥子 にしかわさちこ Sachiko Nishikawa

編集者だった。編集者で本をつくっていた。本が好きで、読めない言語でも文字面が綺麗だと感じる古本を見つけると、時々買っていた。自分がつくっていた本が 休刊になった。時代の移り変わりを、しっかり肌で感じ取った。しばらくずっと誰とも会わなかった。

喋る事もしなかった。無言で時を過ごし、図書館に通った。それほど興味が無くても、なんとなく目についた本を手当たり次第に読んでいた。その中にカルト ナージュ(製本技術とその応用)の本があったので、借りて帰った。朗読CDも一緒に借りた。毎日朗読CDを聴きながらカルトナージュを本を手本につくり続 けた。耳からは言葉が入り込んできて、手元では本をつくる手法を、時々失敗しながら何時間もかけて学習していた。『自分一人でも本が作れるかもしれない』 そんな夢想に浸った。その一方で自分は本当に、本が好きなのだろうかという疑問も持ち始めた。

本は好きだけど、本に教えられた事も沢山あるけれど、本と関わる事で痛い思いもした。本の裏側を知り過ぎた。好きであればあるほど、痛い思いもする。時々 嫌いにもなる。だけど、どうしてか本からあっさりと立ち去ることが出来ない。

これはどこか、恋愛にも似ている。というか、体質なのかも知れない、たぶん。

本屋や、図書館で並んでいる本の背表紙は、思想や、ストーリーの墓標にも見えてくる。本が出来上がるころには、本に関わった人間はもう既に、次の事に手を 付け始めていたりする。当人にはもう、完結してしまった思想であり、ストーリーなのだ。好きということは裏を返せば嫌いということでもある。表裏一体だ。

私に何も教えてくれない、ただなんとなく印象がいいだけの読めない頁をちぎって燃やした。燃やしながら絵を描き始めた。描きながら感じるのは火のパワー。 日常で例えれば料理。液体が蒸気に変わるように、一度何かを終らせた上で、別の何かに変換していく。扱うのはほんの小さな火。じわじわと本を焼きながら、 どんな小さな火にも、大きな破壊力と、新しい息吹を吹き込む力が秘められていることを感じている。



2009年12月グループ展参加

2010年5月 Yasda art linkにて個展
     6月川口そごう展示
     7月L’atelierにて個展
     9月galerie Hにて展示
     9月銀座三越にて展示
2010年の手帳の表紙に起用された虎猫の絵柄の手帳はオン・サンデーズにおいて過去に例をみない売り上げの速さで完売した。

2011年5月アートフェア京都2011(5/20〜22)
     7月「続・江戸川乱歩全集Zaroffパノラマ展」(7/1〜14) / 初台画廊・珈琲 Zaroff

     9月〜10月 神戸アート・マルシェ2011出品
    11月 TORONTO ART FES 出品
     *会期中の人気投票で100人の出品者の中から三位に選ばれる。
    11月〜12月 個展「クロとカゲ」 / ラ・トゥリエ
    12月 「音楽のアート展」 / ドラードギャラリー

2012年2月〜3月 / 個展「&MEMORIES」 / ガルリアッシュ
     2月 ベルリン・アートフェス出品
     4月〜5月 「マイ・ファースト・アート」 / 銀座三越8階ギャラリー
    10月 個展 / ラ・トゥリエ
    12月 展示 / 伊勢丹 新宿店

2013年5月 「我が輩ハ猫デアル」猫文学へのオマージュ展 / カフェギャラリー幻
     5月〜6月 「月明かりの下で」 / 啓祐堂ギャラリー
     7月 「Sanctuary」 / 西武池袋店
    12月〜2014年1月 西武渋谷店

2014年11月 「YORU NO SHITUKAN」 / 喫茶茶会記